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9 家の鍵………あった。

あなたはαで。 俺はあなたを好きになってしまって。 あなたはΩの俺を愛してくれた。 けれど。 世界は残酷だ。 社会の頂点に君臨するαであるあなたと、社会の最下層のΩとでは釣り合いが取れるわけがない。 Ωに生まれただけで。 雄の性器を持ちながら、雄としての生殖能力のない俺は(さげす)まれて。 この世界なんか、大っ嫌いで。 Ωを蔑み支配するαなんか、大っ嫌いで。 それでも発情期が来ると、子を宿す能力を持つ俺は、雄の精子を求めてしまう。 本能に抗えない俺を抱きしめて、あなたは言ってくれた。 番になろう、と……… 俺を受け入れてくれて、嬉しかったよ。 相変わらず、この世界は大っ嫌いだけど。 あなたのお陰で、世界の全部を嫌いにならずに済んだよ。 (あなたのいる世界を守りたい) そう思えるようになった。 Ωを愛してしまう事で、あなたの社会的地位を奪うわけにはいかない。 あなたの一生を与えてくれる言葉だけで、俺はもう十分。 「別れよう」 番だけどね。 番じゃなくなろう。 この部屋にあなたはいない。 あなたを思い出す名残の品も何もない。 なのに。 映像を繋いでつくったあなたの動画で、俺はなにしてるんだろう。 未練がましいΩだね。 心配した両親が、お見合い写真を送ってきた。 あなた以外と結婚したくない。 だって、あなたは俺の番だから。 これは全部、自作自演だ。 お見合いに行きたくない俺が、全部あなたのせいにして。 家の鍵、隠された事にして。 外に出られなくなった事にしてる。 狂言なんだ。 ………………笑えない。 あなたの幸せ、一番に考えるって。 自分に約束したのに。 あなたの事ばかり考えて。 あなたが欲しくて。 もう一度会いたくて。 会いたくて。 でも会えなくて。 涙だけが零れる。 スマホの中のあなたの声、なんべん聞いた? 何度聞いた? これでもう何回目? 覚えてしまったよ。 そう…… 次に来るあなたの言葉は……… 「『そういうところ、好きだよ』」 「そんな君は、嫌いだよ」 どうしてっ あなたの声が重なった。 スマホの中と、そして……… この部屋 あなたのいない部屋。 俺の背後、あなたの声。 吐息を感じた。 背中があたたかい。 腕も胸も。 心臓がトクトク奏でる。 トクントクン、 ドクンドクン、 ドキンドキン 左胸の熱は俺ので、背後に覆い被さる鼓動の熱は……… 「探したよ」 家の鍵、開いていた。 「違うね。私が開けたんだ」

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