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「え? 帰った?」
「はい、昼から戻ってすぐ……体調が悪いからって」
昼食から戻ってすぐに、打ち合わせブースに呼ばれ、小一時間程して戻っても綾人が席に居なかったから、通りかかった事務員に聞くと、心配そうな表情をしながらそう答えたから驚いた。
「あんまり調子が悪そうだったから、所長が一緒に下まで行ってタクシーに乗せてあげたって言ってたわよ」
「そうなんだ。大丈夫かな」
「確か……一人暮らしだったわよね。家で倒れたりしてないかちょっと心配だわ」
その心配は無いだろうけど、まさか帰るとは思わなかったから、智はそれに頷きながら綾人のデスクをじっと見る。
――そういえば、初めてかもしれない。
彼が体調不良を理由に、欠勤や早退をした話など今まで聞いたことがない。
同期入社は二人だけだが、入社した時は合わなそうだと思っていた。
体育会系で活発な自分と、大人しくどこか神経質な雰囲気を持つ一見ヲタク然とした彼に、共通点は無いだろうと判断して、最初は話し掛けもしなかった。
――だけど、誰より真面目で、一生懸命だったから。
仕事ではなく、人間関係での要領が悪い綾人が気になって……生まれながらの気質も手伝い、自然な形で職場内での居場所作りを手伝った。
そんな風に言ってしまうと、かなり上からの発言だが、結果綾人が自分に惚れたなら、智のとったその行動に間違いは無かった筈だ。
――帰るなら一言くらい……。
LINEをくれたら良かったのにと考えた時、そういえば、自分からLINEを送りはするが、綾人から来た事は無いと気が付いて……居てもたってもいられなくなって智は所長の席へ向かった。
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