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「くっ……うぅ」
静かな嗚咽が空気を揺らし、涙がタオルに吸い込まれる。
タクシー代まで払ってくれた所長には申し訳ないが、きっとあのまま会社に居ても仕事などできやしなかった。
――仕事に私情を持ちこむなんて……最低だ。
自責の念と、情けなさに、涙がボロボロ溢れて来る。
道具のように扱われても、大丈夫だと思っていた。
同性愛者である時点で、恋が叶う可能性などゼロに近いと知っていたから、好きな相手と身体を合わせる事ができるだけで、幸せななんだと思おうとしてた。
――でも、もう駄目だ。
彼の気紛れなその行動に、一喜一憂している自分は、本当に馬鹿だと思う。
今日だって、あんなに酷い事をされたのに、心の何処かで悦んでいる淫らで卑しい自分がいて。
――もう、止めよう。
彼にとっては気持ちの無い、興味本位の遊びなのだ。
これ以上続けていたら、きっと心がダメになる。
「うぅ……う」
こんなに涙を流すなんてどれくらいぶりだろう。
陥没している乳首を嗤い、貞操帯まで付けて甚振る。
そんな最低な男の手管に感じてしまう自分も大概 馬鹿な上に変態だろう。
「なんで、こんな事に……」
嗚咽混じりに呟いた時、チャイムの音が鳴り響いた。
「綾人、開けろ」
「っ!」
まだ就業時間内なのに、聞こえた声に息を飲む。しかも住所がどこかなんて、教えた事など無かった筈だ。
「いるんだろ? 開けないと、蹴り破るけど」
「……」
苛立ったような智の声に、綾人がカタカタ震え出すと、ドアを軽く蹴飛ばしたらしく、ドンっと大きな音がした。
――ヤバい。
彼なら本当にやりかねないと思った綾人は慌てて玄関へと向かい、言う事を聞いてくれない指をどうにか動かしドアを開ける。
「……お前、泣いてたのか?」
少しだけドアを開けた途端、凄い勢いで入りこんできた智に顔を下から覗かれ、綾人は身体を震わせながら小さく首を左右に振った。
「泣いてない。越塚、会社は……」
「早退した」
「何で家、知って……」
「坂田さんから聞いた」
紡ぎ出した言葉はどれも途中でことごとく遮られ、綾人は小さく息を吐き出すと、視線を逸らして部屋へと戻る。背後から靴を脱いだ智がついてくるのを気配で感じた。
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