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  *** 「鍵」 「……ああ」  ワンルームのアパートの中はシンプルなテーブルとテレビ、あとはきちんと畳まれている布団が端に置いてある。  促されるまま彼の差し出した座布団に座り待っていると、麦茶を出した綾人が右手を出しながらそう言って来たから、少しためらいはしたが智はポケットからそれを出した。 「あのさ、綾人……」 「準備して来るから、待ってて」  鍵を手にした綾人はそう告げバスルームへと行こうとする。  いつも二人で会う目的ばセックスをする事だけだったし、当たり前のように準備は綾人一人にさせてきた。  だから、綾人がそう思い込むのは当然と言えば当然だが、今日はそうではないのだと告げる為に智は立ち上がる。 「待てよ」 「っ!」  手首を掴むと驚く位に身体がビクリと跳ね上がった。 「何で俺になにも言わずに帰るんだよ」 「……」 「LINEくらい出来ただろ?」  本当は、こんな風に綾人を問い詰めたくは無いのだが、彼が相手だといつも自制が全く効かなくなってしまう。 「……ごめん」  言い訳せずに謝る姿に苛立ちが更に募っていくが、手を振り払った綾人はそのまま逃げるようにバスルームへと入ってしまい、思い詰めたような表情に何も言えなくなった智は、小さく舌打ちしてから部屋へと踵を返して彼を待った。

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