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「鍵」
「……ああ」
ワンルームのアパートの中はシンプルなテーブルとテレビ、あとはきちんと畳まれている布団が端に置いてある。
促されるまま彼の差し出した座布団に座り待っていると、麦茶を出した綾人が右手を出しながらそう言って来たから、少しためらいはしたが智はポケットからそれを出した。
「あのさ、綾人……」
「準備して来るから、待ってて」
鍵を手にした綾人はそう告げバスルームへと行こうとする。
いつも二人で会う目的ばセックスをする事だけだったし、当たり前のように準備は綾人一人にさせてきた。
だから、綾人がそう思い込むのは当然と言えば当然だが、今日はそうではないのだと告げる為に智は立ち上がる。
「待てよ」
「っ!」
手首を掴むと驚く位に身体がビクリと跳ね上がった。
「何で俺になにも言わずに帰るんだよ」
「……」
「LINEくらい出来ただろ?」
本当は、こんな風に綾人を問い詰めたくは無いのだが、彼が相手だといつも自制が全く効かなくなってしまう。
「……ごめん」
言い訳せずに謝る姿に苛立ちが更に募っていくが、手を振り払った綾人はそのまま逃げるようにバスルームへと入ってしまい、思い詰めたような表情に何も言えなくなった智は、小さく舌打ちしてから部屋へと踵を返して彼を待った。
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