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第2話
次に目が覚めたとき、驚いた。久しぶりに天井を見たからだ。掌をつき、身体を起こす。横になって寝たのは、そう、だから1年ぶりだ。
年なんて、もう数える必要はなくなったのだろうけど。
首輪はついたままになっていた。ああけど、服は着ている。これも1年ぶりか。暖かいものだなあ。
そこそこ広い部屋だった。窓もある。僕には届かない場所へだったけど、そこからは陽が差し込み、鳥の鳴く声が聞こえてきた。ずっと地下にいたものだから、これも久しぶりだ。
どういうことだろうか。どうも待遇がよくなっているような気がする。
扉が開いた。僕を牢から出したあの男だった。長い髪を後ろでひとつに束ねている。王よりも、目つきが鋭い。両手には平たい木の板を持っていて、その上には、いくつか器が乗っていた。湯気がたっている。まさか。
「食事です」
食事だと。しかも、こんな立派な食事、ダール人だった頃にも食べたことない。透明な水に、何かよくわからないが緑色の野菜、肉、丸い粒の煮たものが乗っていた。
「え、た、食べても、いいんですか」
「どうぞ」
どうぞ、だと? 興奮のあまり震える手で匙を持ち、丸い粒を少しだけ掬い口に入れてみる。暖かい、甘い、美味しい。なんだこれ。
他のものも食べてみる。肉なんていつぶりだろう。柔らかい、美味しい。
「そんなガリガリの身体で、あまり食べ過ぎると、あとで下しますよ」
「今日は、優しいんですね」
水を一気に飲み干す。すかさず、傍らに置いてあった水差しから、二杯目を注いでくれた。これはどういうことだろう。
「私の名はディノ。あなたの世話役を任されました。――あなたはもう我々と同じ血の流れる仲間です。そういう扱いにすると王が決められましたから」
「なに、それ」
「これからは、我が国についての勉強や作法を学んで頂きます。体力をつけてもらい、仕事にもつけるようになってもらいます」
「何を考えてるんですか、僕はあなたたちの宝を持ち出した――ひっ、」
ディノの拳が、僕のすぐ目前で止まった。節の目立つ大きな拳だ。胃がきゅうと音を上げ、逆流する。吐きそうになるのを、無理矢理飲み込んで堪えた。
「――そのことは、あまり口に出さない方がいいでしょう。お互いのためにも、ね」
両手で口を抑え、こくこく頷いた。食欲はすっかり失せていた。
王に言われて一応は了承したが、全く納得はしていないということなのだろう。
「食べないのであれば、次は身体を清めに行きましょう。臭いし、汚い」
言われるがままに、部屋を出、ディノの後ろを歩く。着いたのは、湯がなみなみと溜まった大きな浴槽の前だった。どうしたらいいのか戸惑っていると、抱き上げられ湯の中に放り込まれた。頭まで漬け込まれた後、引き上げられる。湯船の外で、高さの低い椅子に座らされると、そこで全身を洗われた。
湯が口に入って息継ぎはできないし、傷口も擦られ痛いが、至れり尽くせりだ。
「これは何ですか」
『これ』と指先でつつかれたのは、僕の陰茎だった。
「あなたがたにも、同じものがついているのでは? 雄の生殖器ですよ」
「このように起ち上がっているのは初めて見ました。赤くなってる、痛いですか?」
「っ、あ、あまり、触らないで下さい」
「ぬるぬるする。何ですか、これは? このままの状態では下着への収まりが悪いのでは?」
聞いたことがある。詳しくは知らないけれど、アウール人は不老不死であるためか、繁殖力が非常に低い。それは、滅多なことでは発情しないからだと。要するに、ディノは勃起したモノを見るのは初めてなのかもしれない。
断じて僕は、今のこの状況に発情しているわけではない。突然血流がよくなったためか、起きたばかりのせいか、生命の危機状態が続いていたためか、そういった諸々の理由が引き起こしたただの生理的な現象だ。
「あ、ぅ。や、やめて下さい」
興味津々の様子で、僕の勃起した陰茎を擦ったり、先をいじったり、皮をめくったりと観察している。
知的好奇心が高いのも、アウール人の特徴だったか。
「っ、」
あっさりと達してしまった。ディノは掌に放たれた白い液体を見て、目を見開いている。許して下さい。ダール人だった頃も、最低限しか処理して来なかったんです。他人に触れられた経験もなかったんです。仕方がないんです。ごめんなさい。
ディノは湯船の傍に吊られていた長い管のようなものを持ってきた。小さな穴がたくさん開いた先の方から勢いよく水が噴き出している。それでまず、自分の手をきれいにし、次いで、僕の汚れた陰茎へ水流を向けた。
痛いし、つらい。
そんな刺激にまた反応をしてしまった僕のモノを、無言でディノはいじり倒す。そしてまた達してしまった。そこにまた水が放射される。もう嫌だ。ディノの目はキラキラ輝いていた。
僕のモノがすっかり萎えるまで、この作業は続いた。
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