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第3話

 久しぶりに鏡を見た。一段と痩せ衰えた自分の顔にまず驚き、薄い茶色だった髪が黒く、瞳は赤く変わっていることに驚いた。体格は全く違うが、アウール人の色合いに変わっている。  本当に不老不死になってしまったんだろうな。  髪も腰のあたりまで伸びていた。貧相な体つきも手伝って、まるで女みたいなだと苦笑した。着ているものもアウール人に合った型のものだったので、僕には大きい。上着だけで膝あたりまである。袖は肘までまくり上げた。下着に至っては履いても意味を為さない有様だったので、どうもしようがなく、そのままだ。何が、『下着への収まりが……』だ。 「大丈夫ですか」  慣れない湯と、しつこい行為の連続で、僕は一度、気を失ってしまっていた。一口、一口、水を飲みながら頷く。今は、ディノに鏡の前に座らされ、後ろから髪をとかれている最中だ。いやあ、ははは、本当に、至れり尽くせりだな。だるい。  僕の髪はディノがしているように1つにすっきりまとめられた。 「王が会いたいと言っていたので、行きましょう」  はい。行きましょうかね。  僕は重い身体を引きずるようにして、ディノに付いていった。歩幅が違うことをわかってほしい。何度か小走りになり、転けそうになりながら、昨日と同じ部屋の前に来た。リヅィアは、椅子に座り、お茶を啜っていた。  僕の姿に首を傾げる。 「風呂で身を清めたんじゃなかったのか」  ディノが「はい、つい先ほど」と僕の方を振り返り、眉をひそめた。汗で髪も服も肌にはりついていたからだろう。これは、ディノが、ディノが歩くのが速かったからいけないんだ。僕は悪くない。必死でついていっただけだ。  リヅィアが起ち上がり、ゆっくり近づいてくる。手が伸びてくるのがわかって、思わず、目を閉じた。 「すまなかったな」  ディノにされたような荷物扱いではない、女達の憧れるいわゆる『お姫様抱っこ』をされていた。部屋の隅に置かれていた分厚い布の張られた長いすに横たえられる。 「まだ変化のせいで身体がつらいのだろう。呼び出して悪かったな」  いいえ。身体がつらいのは、そちらでさも不思議そうに顔をしかめているディノさんに遊ばれたせいです。くたくたなのです。  絨毯の上に片膝をついたリヅィアは恐ろしい程、優しく僕の頭を撫でてくれる。なんだこれ。「僕は、お前達の宝を盗んだんだぞ」、そう言いたくなったが、今度こそ本当に殴られそうなのでやめておいた。  痛いのはできるだけ避けたい。 「宝の件だが」  と思いきや、王自ら、話題に触れてきた。  なんだ、なんだ。もう使ってしまったものは仕方がないじゃないか。お前達にとって100年なんてすぐだろう。不慮の事故なんてそう滅多に起こらないよ。それよりも、レノが使った方がよかったよ。 「忘れよう」  え、いいの。 「お前は充分に罰を受けた。それで許そう」 「罰、って、え、それは、これからなんじゃないんですか。これから、また、永遠に拷問されるんじゃないんですか」 「もはやそれに意味はないだろう」  それはそうだけれど、え、じゃあ、僕は何のためにこの身体にされたんだ。僕はこれから何をすればいいんだ。どうやって過ごせばいいんだ。 「ディノから聞かなかったか? 仲間として迎えると」 「き、聞きました。け、ど、何、何のために、僕なんかを仲間にって、え」  そちら側からすれば、僕は犯罪者だろう。それも取り返しのつかないことをした。憎まれこそすれ、どうして身内に招き入れようとするんだ。 「いつも薄ら笑いを浮かべていたお前が、唯一抵抗する姿が見れた。だから、お前に俺の血を与えるまでが『罰』。そして、その『罰』はあの時点で終わっている」  え、じゃあ、本当に僕は、これから、この国についての勉強や作法を学んで、体力をつけて、何らかの仕事について、ここでアウール人として生活していくのか。 「ダール人とは、もっと情の薄いもの達だとばかり思っていたが、お前は最後の最後まで仲間を守りきった。それは賞讃に値する。名はなんというんだ?」 「キール、です」 「そうか、キール。俺はお前を歓迎しよう」  仲間? 歓迎? なんだそれ。  僕は、レノのために、これからも生きるんだ。罰を受けながら、生きるんだ。そのはずだったのに。

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