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第9話

 レノは僕のことを気に入って買ってくれたようだった。本当に優しく接してくれた。家人に暴力を振るわれているときは割って入ってくれることさえあった。  たくさん可愛がってくれた。  けれど、成長するにつれて、レノには恋人ができた。すっかり僕のことは忘れてしまったようだった。むしろ、邪魔に思われているようだった。目すら合わせてもらえない。声もかけてくれない。  僕はできるだけ彼の視界に入らないように過ごすことにした。家を追い出されることはなかったが、存在していないもののように扱われた。  誰も僕を必要としない。  けれど、ある日、レノが僕をまた見てくれた。  彼の恋人が事故にあった。アウール人の宝の話を知っているか。使えば、すぐに傷を癒し、命さえも復活させると聞く。それを一緒にとりにきてもらえないか。  僕はまた構ってくれたことが嬉しくて、一も二もなく頷いた。  アウール人は、一部では神として崇められている存在だ。怖いという気持ちもあった。けれど、僕にとつて、レノの言葉の方が重かった。レノのために何かできるならそれは、幸せなことだった。  森を越え山を越え、辿り着いたのは塀で囲まれた小さな国だった。警備の者すらいない塀をよじ登り、一番大きな屋敷に向かう。レノも一緒だった。宝の置かれている場所には人がいたが、全く侵入者の存在を警戒しているようではなかった。  レノは彼らの目をかいくぐり、宝を手に入れた。そこで、初めて僕の方を振り返った。  ここから逃げる時間を稼ぐんだと命じられる。僕は、ただ、頷いた。 『レノ、今までありがとう』  捨てられるのだと気づいていた。初めからこうするつもりだったのかもしれない。  僕はわざと、警備の前に姿を出し、屋敷内を走り回った。少しでも彼らの目が僕に向きますように、レノが無事に逃げられますように。 『俺は、何があってもお前の味方だから』  気まぐれで言った言葉かもしれない。けれど、僕は本当に本当に本当に、嬉しかったんだ。その言葉が、全てだった。  *** 「キール、」  リヅィアの掌が、僕の背中を躊躇いがちにさすっている。顔を上げると、「落ち着いたか?」と声をかけられた。 「残念でしたね」 「キール?」 「いくら僕を尋問したところで、レノの居場所なんて知るわけがないのに。僕はレノに教えてなんかもらえていないのに。時間と労力を無駄にしましたね」 「誰もそんなことは言っていないだろう」 「滑稽に思っているんでしょう。惨めに思っているんでしょう。そうです。僕は、レノに捨てられたんです。そんなことわかっています。けれど、レノに縋ることでしか生きられなかったんです」 「思っていない。そんなことを言わないでくれ」  毎日毎日、丸を描く。生きていなければいけない残り日数を数える。もう少し、もう少し、それを繰り返す。  レノの寿命が尽きたら、僕も死のうと思っていた。 「さっき、随分と間まがよかったですね。ああ、示し合わせてたんですか」  それなら、ディノを殴り飛ばしたのも演技なのだろう。納得だ。先生曰くの、とてもとても固いアウール人の絆に、虫如きが敵うわけがない。  笑える。そういうことか。 「仕組んでたんでしょう。よかったですね、企みどおり、僕は」  一度、唇を噛みしめる。このまま話をしていたら、泣いてしまいそうだった。唾を飲み込み、改めて口を開く。 「僕は、あなたに助けてって、願いましたよ」  堪えきれず、嗚咽が肩を振るわす。「満足ですか」と問えば、リヅィアは大きく目を見開き、顔を真っ赤にした。それから、「そうか」と僕の丸めた背中を抱いた。 「すまない。嬉しい」 「離して下さい」 「好きだ」  リヅィアの熱が服越しに伝わってくる。熱い。  心臓が跳ね上がった。  「な、なあ、本当にやめろよ。そういうの。どうしたらいいのかわからない。困る。だいたいあんた、意味わかって言ってんの?」 「ちゃんと調べた。問題ない。アウール人のことは皆一様に大切に思っている。けれど、キールは特別だ。俺もあいつにしているように、キールに執着してほしい」  手を動かし、めちゃくちゃに暴れるが、その腕ごとリヅィアに抱きしめられる。「やめろ」と頭だけを必死で横に振る。声が近い。 「あの男を守り続けようとしたキールは、本当にすごい。俺は、あいつのことを羨ましいと、ずっと思っていた。なあ、キール」  耳元で名前を呼ばないでほしい。固く目を閉じる。 「俺を、好きになってほしい」  なんだよそれ。  泣き顔が見たいとか、助けを求められたいとか、執着されたいとか、あんた注文が多すぎるんだよ。  やめろよ。 「キール、俺は絶対に裏切らない。あいつと違う。信じてほしい」  こんなの絶対に僕の勘違いだ。また、勘違いだ。  僕なんかを好きになってくれるような人、いるわけがない。レノ以外に、いるわけがない。  そうでしょう? 「キール」  リヅィアの息づかいが段々と荒くなっていくことに気がついた。太腿のあたりに熱く太いモノが擦りつけられる。  まさかまさかだろう。まさか。 「勃起した」  危うく悲鳴を上げるところだった。  無理です。  当たる感じからして、ヤックの男根よりも数倍は大きく、固い。腕から抜けだそうと藻掻くが、腕の拘束はより強くなった。 「む、無理、無理」 「大丈夫。キール、落ち着いて。何もしない。じっとしてれば収まる。だからもう少しこのままで」  ここまで巨大に成長したモノが、そうそう簡単に収まるのでしょうか。リヅィアは僕に後ろから覆い被さったまま、動こうとしない。  不老不死の一族であるアウール人が、発情することなんて、滅多にないんじゃなかったのか。  リヅィアにとって、もしかしたら、初めての現象なのかもしれないのに。きっと、痛いだろうし、つらいだろうに、ここに、どう扱ってもいいような虫がいるのに。  本当に、何もしてこない。 「リヅィア、」  返事をする余裕はもうなくなっているようだ。ただ、ぎゅうと痛いくらいに抱きしめられた。  その様子が、なんだかどうしようもないくらいにいじらしい。可愛い、だなんて、こんな大きな男に使う言葉ではないだろうが、そういう感情で胸がいっぱいだった。 「僕のこと、本当に」  リヅィアは、荒い息の合間合間を縫いながら、「好きだ」と確かに言ってくれた。今だけの感情かもしれない。けど、それは本当に、本当なんだろう。  今の状況で、それを疑えるわけがない。  どうしよう。嬉しい。  嬉しい。 「すまない、キール。なかなか、は、収まらない。こんなときに」  本気で申し訳なさそうな声がする。馬鹿だなあ。  愛おしい。こんなことを思ったのは初めてだ。 「僕の身体、使って下さい」 「大丈夫、だ、っ」 「腕を解いて下さい。それから、自分の服の前をくつろげて。きついでしょう」  普段とは立場が逆だ。リヅィアは僕に言われるがままに、下履きを脱いだらしい。一気に部屋に充満する熱気が濃厚になったように思う。  僕も、自分の上着を胸のあたりまで捲りあげる。膝を立て、膝同士を密着させた。肉付きが悪いので、そこまでの圧迫感は与えられないかもしれない。  リヅィアは、僕が言った以上のことはしてこようとはしなかった。次の指示を黙って待っているようだ。可愛い。 「僕の、腿と腿の間に、その、ソレを挿れて下さい」 「う、こ、こうか?」  腕の間から、下を見る。想像していたよりも大きく、怒張していた。怖い。目を逸らした。 「前後に揺れて下さい。ソレが擦られるように、続けて下さい」 「あ、ああ」  リヅィアはぎこちない動きで、腰を振り始めた。段々とそれは早くなり、夢中になって感じ入っているようだ。ホッとする。僕自身も、大きな起立に裏筋を何度もなぞられ、苦しい程に張り詰めていた。 「ひ、ぁ」  突然、リヅィアの手が僕の胸を覆った。小さな粒ごと、力強い律動とともに擦られる。声をかけても、返ってくるのは、胸と前への刺激ばかりだ。 「や、リヅィア、ぁ」 「くっ、キール……!」  やがて、ほぼ同時に果てた。しかし、腿に挟んだソレが萎える気配は全くない。どくどくと脈打っている。  よくもまぁ、これをじっとしていて収められると思ったな。 「も、一度、いいか? キール、」  本人も戸惑っているようだった。ちくしょう。ダメだなんていいづらい。僕は枕を引き寄せ、抱きかかえた。長期戦の構えだ。  「好きにして下さい」と言えば、すぐさま動きが再開された。達したばかりの前が更に刺激をされてつらい。  リヅィアはその姿勢でもう一度放った後、今度は僕を仰向けにした。僕の震える陰茎や、腫れた乳首に今度はモノを擦りつけ始める。  よかった。さすがに、中に入れようとは思ってはいないらしい。 「ぅ、ああ、ああっ」 「キール、キール、もう一度、」  お強請りは、夜更けまで続いた。アウール人の発情、怖い。

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