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番外編1(手紙)
キールへ。
もし、この手紙を読んでいるのなら、それは、とても嬉しいことだ。
先日、妻が亡くなった。老衰だった。穏やかな最期だった。まるで眠るかの如く、息を引き取った。
それも全部、キール、お前のおかげだ。
本当に感謝をしている。
そして、申し訳なく思っている。
あのとき、アウール人の屋敷にお前を置いていったことを後悔している。あんなにも私のことを慕ってくれていたお前に、どうして、あんな真似ができたのかと、今ではそう思う。
ただ、あのときの私は違った。
お前のことが、鬱陶しくて仕方がなかった。恨めしそうな目で、物陰から私を睨むお前のことが嫌いだった。
妻と出会い、恋人になり、毎日が楽しかった。そんな中で、お前だけが私の心の中でいつも影となっていた。
だから、彼女の身が危険になったとき、宝を盗むことを提案したとき、私は一石二鳥だと思った。
宝が手に入りやすくなる。そして、陰鬱なあの目から逃れられる。
計画がうまくいったときには、爽快な気分だった。これでようやく解放されたのだと思った。
妻と暮らす日々は幸せそのものだった。子どももできた。ただ時折、お前の目が蘇る。私の中に、また暗い影を落とす。その度に、私はお前を罵り、軽んじ、そして妻を愛する言葉を吐くことで、それを払拭していた。
酷い話だと、思う。
妻が亡くなってからは、お前のことばかりが頭に蘇ってくる。
街で見かけたお前を、親にねだって買ってもらった。お前は、小さくて弱々しくて、私にとって、とても愛らしい生き物だった。
私が面倒をみないと、私が守らないと、そう考えて、いつも構っていた。お前は、それを本当に嬉しそうに頬を赤くして喜んでいたな。
お前の、そんな顔を最後に見たのはいつだろうか。そう考えたとき、声がするんだ。
『レノ、今までありがとう』
忘れようとしていた。いや、忘れていた。
あのときもそうだ。聞こえないフリをした。振り返ることもしなかった。けど、あのとき、お前は、そう言ってくれたよな。
今更だとわかっている。
けど、そのことに気がついてから、ずっと、胸が痛いんだ。
お前が、アウール人に捕らえられて、酷い目にあっていないだろうか。あんな細い身体で無茶なことを強いられてはいないだろうか。殺されては、いないだろうか。
ああ、今更だ。
どうか、どうか、どんなかたちでもいい。キール、お前が生きていますように。
できれば、幸せで在りますように。
本当に本当に、申し訳なかった。けれど、感謝をしている。
そして、忘れないでほしい。
私は、お前のことを愛していたよ。
どうか、許して欲しい。
レノより。
今日は、来てくれてありがとう。
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