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番外編(にゃんにゃんにゃん前)

にゃんにゃんにゃん(前) 「俺ばかりが、我慢をしている気がする」  リヅィアは、ハッと目を見開きそう言った。顎に手をあて、えらく考え込んでいるなあと思っていたら何を言い出すのか。  胸に凭れるようにしていた僕の身体を抱き寄せ、上から顔を覗き込んでくる。 「俺ばかりが、譲っている気がする」  もう一度、似たような言葉を繰り返す。  「そんな気がするぞ」と、僕の肩口に頭を擦りつけてきた。痛い。 「本当は行かせたくなかったが、あの男の葬儀への参列も許した。手紙だって、ちゃんと返した。読んでほしくはなかったが、それも許した」  どれも結構長くごねられた記憶があるが。  「別に1人でも行けましたし、ついてきてほしいとも言っていません」と言えば、「だからそういう問題じゃない!」と睨まれた。  溜息を吐く。何を訴えたいんだろうか。困ってしまって、とりあえず、リヅィアを見上げる。リヅィアは開きかけた口を閉じ、顔を赤くした。「怒っているわけではないのだが」と眉を八の字にし、目線を逸らす。 「だから、その、キールにも譲歩してもらいたい」 「どうすればいいんですか?」  僕の言葉に、リヅィアは表情をパァと輝かせた。それを見ていると、多少の難題でも、頑張ってみようという意欲が沸いてきた。よし。  リヅィアは大きな身体をもじもじと揺らした後、ぽつりと言った。 「俺の勃起した陰茎を、キールの中に挿入したい」 「却下」  せっかく高まった意欲はあっさり減退した。  リヅィアが勃起するのは、いつも唐突で、きっかけがわからない。僕に発情してくれているのはわかる。それは嬉しい。僕もそれに応えたいと奉仕をしているつもりだ。大きすぎるソレと舐めたり、どうにか先だけ咥えたり、揉んだり、太腿で挟んだり、身体全体を使って擦ることさえする。  まだまだその生理現象に慣れていないリヅィアが、僕なんかの手技に翻弄される様は、愛おしいと思う。  けれど、中にとなると話は別だ。  リヅィアに求められて、後ろを解すことはあるが、それでも、指2本までだ。未だに恐怖心が残るその行為は、好きな行為ではない。リヅィアに請われなければ、やりたくもない。  リヅィアの目が、潤んでいる。泣くのでは心配したが、堪えたようだ。  ズキズキと胸が痛む。  「そうだよな、すまない」など、謝られ、ますます申し訳なくなる。リヅィアは肩を落とし項垂れたまま、部下に呼ばれ、部屋を出て行ってしまった。  落ち込ませてしまった。  どうしよう。  勃起の時期もわからないし、いざ勃起したところで、いきなりなんてきっと無理だ。アレを挿入するための練習がいる。  どうしよう。  締まってしまった扉を見つめる。  どうしよう。  捨てられたらどうしよう。  突然、不安と焦燥感に駆られ、拳を強く握りしめる。もう一度決意を固めた。  リヅィアの願いを叶えるんだ。   ***  それから毎日、リヅィアの目のないところで、1人で後ろを解すよう努めた。こっそり厨房より拝借した油を指に絡ませ、後ろに入れる。汚れてもいいように、場所は空の湯船の中だ。背を丸め前から手を伸ばす。 「んっ、う、ん」  思わず漏れる声が、固い壁に反射をして、気持ちが悪い。怖じ気づく指を、なんとか鼓舞して伸ばす。リヅィアの指ほど長さがないため、奥までは届かないが、何度も出し入れを繰り返す内に、肛門周囲は緩んできた。痛くはない。駄目だ。もっと痛くないと、リヅィアのものは受け入れられない。  足りない、太さも長さも僕の指じゃ不十分だ。 「っ、あ!」  中指が内壁の前側、凝りのようになっている部分に触れる。それと同時に、思わずのけぞってしまったせいで、後頭部を打った。  ここだ、ここを触れれば、多少痛くても耐えられるかもしれない。  僕は夢中になってそこを撫でた。びくびくと太腿が跳ねる。自分でその位置を知っておけば、いざというときにリヅィアを導けるかもしれない。 「ん、んっ、」  繰り返される強い刺激に、涙が出てくる。苦しい。けれど、これだけじゃ足りない。指を後ろから引き抜く。荒い息が、浴室内で響く。  足りない。長さも太さも力も。そう考えたとき、ふと頭に浮かぶものがあった。ぞわぞわと全身に鳥肌が立つ。  けれど、それしか思いつかなかった。  ヤックだ。ヤックの張形であれば、充分な練習ができる。怖いけれど、自分ですれば、加減もできるし、心の準備もしやすいだろう。  大丈夫、無理矢理だったとはいえ、一度は受け入れることができた大きさだ。あれに慣れていけばきっと大丈夫、リヅィアを喜ばせてあげられる。  ゆるく勃っている僕自身を、いい加減に慰め、身を清めて外に出た。

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