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25.撮影 後編

「聖さんは…どうして僕にそこまでしてくれるんですか?」 「どうしてだろうね?」 「…。質問を質問で返さないでくださいよ」 「うーん、じゃあ秘密ということで。僕の勝手な我儘なだけだから」 「…答えになっていないです」 璃玖は聖の煮えきらない答えに不満を感じ、子供のように口を尖らせる。 「そんな顔してもダーメ。教えてあげないよ。でも…いつかはわかるよ」 「いつかですか…」 「そう、いつか…ね」 聖はわざとらしくウインクをして、首をすくめて見せた。 「僕にはわからないです…。わざわざ僕に自分のこと気づかせるために、こんな撮影場所まで準備してくれたんですか?」 「うーん、半分はそうかな。論より証拠だったしね」 「でも、なんで二人っきりで?」 「それは璃玖君が緊張しないためだよ。それに、僕と一緒にいることがバレると、不本意な仕事、噂話…それに追っかけが出るかもしれないからね」 「聖さんって…やっぱりよくわからないです」 璃玖が曲を作る対価として、璃玖に色々教えてくれるという話だったが、脅迫まがいに曲作りを依頼してきた聖と、こんなにも璃玖に対して色々な配慮をしてくれる聖に璃玖はギャップを感じてしまう。 だが、恐らくどちらも聖であり、聖にとって自分自身に何か重要な役割があるのだろうと、なんとなくだが璃玖は状況を理解してきた気がした。 「どうする?よくわからない僕から逃げ出したくなった?」 聖は人を試すような物言いで、不敵な笑みを浮かべて璃玖に質問をする。 「今更逃げないですよ。僕には時間がないんです。だからこそ、今出来ることを精一杯やってみせます」 聖を真っ直ぐ見つめて璃玖は答えた。 「時間がない…か。たしかに時間は戻せないからね。絶対に、後悔だけはしないようにね」 (後悔…) その時、璃玖は不思議な感覚を感じた。 聖は何気なく言ったのかもしれないが、不思議と相良の言葉に聞こえたからだ。 「…それ…相良先生にも言われました…」 「相良…先輩に?」 「はい。僕には後悔しないようにしろって。相良先生、僕に隣にいたかった人がいたって話してくれたんです。先生はアイドルになることを諦めたことは後悔はしていないって言っていたけど…その人の隣にいられなかったこと、本当は後悔しているんじゃ…」 璃玖の中で、相良が浮かべていた聖を見つめる寂しげな表情と、聖に一樹とデビューをしたいと話をした時の表情が重なった。 「相良先生が隣にいたかった人って…聖さん…なんですよね。本当は、二人とも後悔しているから…。だから、僕には後悔するようなことはするなって教えて…」 「璃玖君、それは違うよ。相良先輩が一緒に居たかった人は別の人だよ」 聖は璃玖の言葉をまるで遮るように、首を振りながら答えた。 「でも…!」 璃玖は相良がどんな顔で聖を見つめていたかを伝えようとするが、聖の人差し指が璃玖の口元に当てられてしまう。 まるで、これ以上言葉にしてしまうと取り返しがつかないかを教えるように、聖はゆっくりと、もう一度首を横に振った。 「璃玖君は頭のいい子だね。そっか…あの人、そんなこと璃玖君に話したんだ」 聖は璃玖の口元の指をゆっくり離すと、今度は自分の口元を隠すようにして璃玖から顔を背けた。 「聖…さん…」 璃玖には聖の横顔が、今まで見たこともない切なさに満ちた表情のように見え、今の話は聖に伝えてはいけなかったことなのかと思い、慌てふためいてしまう。 「ごめんなさいっ!僕、無神経なこと…」 「いや、違うんだ…。でも、そっか…。璃玖君、ありがとう教えてくれて」 璃玖の動揺に気づき、聖はすぐに璃玖に向けていつも通りの笑みを浮かべた。 「聖さん…僕…」 聖が浮かべる笑みが璃玖には無理して笑っているようにしか見えず、璃玖は胸を締め付けられよう気持ちになる。 だが、これ以上どう声をかけていいかわからず、璃玖は言葉に詰まってしまう。 そんな璃玖の様子とは裏腹に、聖はいつものように微笑んだまま、璃玖の額にデコピンをした。 「あっ、イタッ!」 「なんていう顔をしているんだい?」 「だって…」 「こらっ」 聖は宣言通り『だって』という言葉を発した璃玖の鼻を先ほどのようにつまむが、璃玖を見つめる聖の顔はいつも以上に優しく笑っているように見えた。 「もう、この話はお終い。ねぇ、璃玖君、このまま僕と一緒にコンサート用のポスターに写ってくれる?」 「聖…さんと…?」 「そう、僕と。もちろん事務所には通すし、顔は映さないから璃玖君とはわからないようにするよ。せっかくだから一緒にいいもの作らない?」 聖は璃玖に手を差し出す。 (今までの僕だったらこの手をとることを躊躇していただろうな…) 璃玖はそんなこをと考えつつ、すぐに聖の差し出された手をとった。 「…お願いします!僕、聖さんからもっと学びたいです」 聖は一瞬驚いた顔をしたが、璃玖の心境の変化にまるで喜ぶかのように璃玖の手を強く握った。 「璃玖君は…本当に可愛いね。その素直なところがやっぱり璃玖君の強みなんだろうね。じゃあ、さっそく始めようか」 聖はそのまま璃玖の手を引いてカウチソファーまで戻っていった。

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