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紅と碧湖 様 『三十年目の聖夜』
紅と碧湖 さま
三十年目の聖夜
「 今日さ、アパートの近くの商店街の端っこにあるバーに入ってさ 」
深夜近くに遅く帰ってきた青木が疲れた様子でソファに放った上着を抱え込んだジュンヤが、
なぜか楽しそうに話しだす。
「 一人でか?」
「 うん、と……」
「 だれと行った?」
こんなに嫉妬深い自分に驚いながら、今からまでの恋人たちにはそこまで聞いたことのない言葉をジュンヤにはかける。
「 あ、ほら店で、
バックドアーで知らない?
最近サックス吹いてる晴矢と、恋人の 」
「 晴矢?恋人?」
「 だからさ、話の腰を下ろさないで 」
「 ジュンヤ、それを言うなら、折らないで、だ 」
素直にコクリと頷き言い直す可愛い恋人を一日中纏って草臥れているワイシャツの胸に閉じ込める。
フワッと香る少し烟ったアルコールの香りは、
「 お前、今日はバーボンにしたの?」
と聞きながら、青木は僅かに鼻に入る違和感のある匂いに気がついた。
「 あとは、何だ?
なんか食べたのか? 」
「 え?
わかる? 」
「 あぁ、味噌の、香りか?」
「 そうそう、それ話そうと思ってた 」
青木のワイシャツの腋の下辺りの匂いを深く吸い込んだジュンヤは、
「 あー、癒される〜 」
と安堵したようにその肢体を青木に強く押し付け、今夜の出会いを話し出した。
「 なんか、オールドファッションな店でさ、凄く感じが良かった。
晴矢の恋人の啓志さんが何回か行ったことがあるって言ってさ、
それがまたマスターが俺の知らない時代のロックに詳しくて話が面白くて、
渋くて、
それでいて、
His gesture was cute.
甘いマスクで良い男なんだ 」
「 あぁ、バーのマスターがいい男で、
cuteで?」
抱きしめた指を肩甲骨辺りを狙い強めに押すと
「 ぁん、そこ、痛い、ダメ!」
と言いながら身体を捩らせるが、更にその先の話があるようだ。
「 それでさ、暫くマスターとロックの話しながら飲んでたらさ、
これまた渋くてニヒルな男が来たわけ。
マスターの友ダチって感じなんだけど、なんかさ……」
「 なんか?」
「 二人の視線がやけに熱くて、絡むんだよね……あれって 」
…… 自分がゲイだけにこういうことには鋭いジュンヤに、ふと重ねてきた報われない恋の軌跡を思う。
「 それでさ 」
まだ続きがあるのか、と思いながらソファの上でクルリと体勢を変えると、
抵抗もなく青木の下腹部に縫いとめられたジュンヤの雄は恋人とのその先を期待してあっけなく硬くなる。
モゾモゾしながらそれでも濡れた唇は他人の話に忙しくて……
塞ごうと寄せた唇はあと少しで……
「 鯖の味噌煮。
その友達にだけ夕飯に出すんだって、
鯖の味噌煮、味噌煮って美味いの?」
突拍子も無いその言葉に苦笑いしながら、
美味いのはお前の中だよ。
もう一度鯖の、と言いかけたジュンヤの唇を塞ぐと、
若く多情な恋人の頭はもうこの先の愛撫の予感でいっぱいで。
鯖の味噌煮は
明日の朝まで封じ込めたな。
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三十年目の聖夜 | 紅と碧湖の小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー] https://fujossy.jp/books/9072?utm_source=twitter&utm_medium=social&utm_campaign=user_share_tweet #fujossy
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