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第4話
「よっ、災難だったな」
「へっ?何がですか」
「何がって......、柏木部長さ」
デスクに案内されて荷物を整理していると、茶髪の男が近寄ってきた。
声を潜めるように柏木部長の名前を口にする。
デスクで話していたことは、既に広まっているらしい。
「俺が申し訳ないくらいですよ。柏木部長が直々になんて。優秀って聞くじゃないですか」
「そうだけどな......なんせ雪男だぞ。室田、気をつけろよ、凍らされるぞ。.......あ、俺は犬塚圭人だ。よろしくな」
また出た。
雪男。
噂だけを聞いていた時はビクビクしていたけど、実はそこまで心配していない。
......緊張はするけど、柏木部長は噂に聞くような人じゃないとなんとなく思う。
まだ入ったばかりで出会ったばかりのペーペーだけど。
「はい、よろしくお願いします」
肩をバシバシ叩くと、犬塚さんは俺の斜め向かいのデスクへ戻っていった。
「.....よし、俺も早く仕事を覚えよう」
俺は気合いを入れて、柏木部長のデスクに向かった。
「これまでのクライアント情報、メディア会社情報は全てファイリングして資料室に置いている。資料室はここだ。中に入れ」
柏木部長は話しながら資料室のドアを開けた。
「うちは広告代理店だ。主に大手株式会社、中小企業、そして個人、全ての広告を請け負う。そして彼らの希望する企画や広報を共に練り、メディアに繋げる」
そのまま無表情に壁際のスイッチを入れると、中に入る。
少しホコリっぽい臭いと共に、棚にズラリと並んだ分厚いファイルが目に入った。
「ひとまずはうちの会社と繋がっているメディア会社とクライアント情報を出来るだけ頭に入れて欲しい。そのためにも......と言う訳では無いが、ついでにここにある資料を種類別に分けてかな順にファイリングし直してくれ」
「はい」
「部署内での持ち出し可能だが、コピーや持ち帰りはするな。情報漏洩はごめんだ」
「分かりました」
「分からないことは聞け、教える」
「はい」
「頭に入ったら、一緒に営業回ってもらう」
「わ、分かりました」
.......怒涛の5分だった。
柏木部長が去った資料室でため息をつく。
「うぅ、ぼぅっとしてる場合じゃないな、どんどんやろう」
俺は山のような資料を前に、気合いを入れた。
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