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第5話

必死でファイリングをしていたら、いつの間にか昼食の時間になっていたようだ。 「室田君ー!お昼行かない?」 「......?」 呼ばれた方を向くと、同じ営業部の先輩方3人が俺の事を呼んでいた。 「えっ、ご一緒してもいいですか」 「いいよいいよ、早く行こう」 「そうだぞ、時間なくなるぞ」 「早く食って体力つけよう」 犬塚先輩と、......まだ名前を聞いていない先輩2人が答えてくれる。 「ありがとうございます、今行きます」 嬉しくて、慌ててファイルを資料室に戻す。 先輩達はドアの前で待っていてくれた。 慌てて駆け寄るとクスリと笑われる。 「な、何か......?」 また変なことした? 「ん?いや?何でもないよ?......ね?」 「おう、なんでもないぞ?」 「さっさと行こう」 一番背の高い先輩が何かを誤魔化すと犬塚先輩に同意を求める。 黒髪に髭の生えた先輩が促すと、みんなエレベーターへ向かって歩き出す。 「えっ、ちょ、待ってくださいー!」 俺は先輩達のあとを追いかけた。 「ぶっちゃけ、どうよ」 「むぐっ......何がっすか」 犬塚先輩の顔が思ったより近くて、軽く噎せながらも聞く。 「雪男だよ」 長身の先輩が、サンドイッチを食べながら付け足してくれた。 名前は新条優と言うらしい。 新条先輩も犬塚先輩同様、柏木部長について興味があるみたいだった。 「.....普通っすよ」 俺は少し、こんなに噂にされる柏木部長がなんだか可哀想に思えてきた。 と言うより、この話題が、本人のいないところで話すという行為が好きじゃない。 「まあまだ一日.....半日すら経ってないっすからね」 「そうだねえ」 「だな」 「なんかあったら遠慮なく言ってね。力になるから」 新条先輩の優しさに、うるうるする。 「はいっ、色々分からないことがあると思いますが、お願いします」 「俺も、一緒に呑みにだったら行くぞ」 犬塚先輩は、いつも飲み会に行きたいと騒いでいるらしかった。 「はい」 ありがたい。 ちょっと距離が近くてびっくりするけれど。 「モゴ、モゴ、ング、まあ、なんかあったら言って」 ずっと夢中になって食べていた、もう1人の先輩、進藤先輩も、口の中に入っていたものを飲み込みつつ言ってくれた。 「なんか、ありがとうございます。俺、嬉しいです」 昼休みにこんなに大勢で、一緒に飯を食べることができるなんて思ってもいなかったから、なんだかとても嬉しかった。 でも......頭の片隅に、雪男と呼ばれる柏木部長のことがずっと残っていた。

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