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第7話
その日何とか授業を聞き終えたものの、雪人はこの日図書館に行く気にならなかった。
けれど自分の家に帰るのもあの日の出来事を思い出してしまいそうで嫌でしょうがない。
先に歩く純の後ろをとぼとぼとついて行く。
すると純が仕方がないという風に雪人に提案してきた。
「雪人、今朝親父が顔を見せろって言ってた」
「…じゃあ…行く」
本当は純に誘われて嬉しいのだが、性格的に素直に感謝する事が出来ない。
でも、今は純と一緒にいたいと思った。
雪人の住む家と純の住む家は同じ敷地に建っている。
白鳥沢家は代々その広大な土地に家を建てて住んでいるケースが多いのだが、雪人と純の家は隣同士に建っていた。
雪人の父芳人と純の父真人は実の兄弟で、とても仲がいい。
子供の頃から家族同士交流があり、互いの家を行き来する。
さすがに高校に進学してからは頻繁に泊まり込むようなことはしていなかった。
最近は純の部屋で一緒に勉強する程度。
それでも雪人には十分だった。
定期テスト前には純の部屋のソファーベッドで眠る日もある。
純の部屋で、純の匂いに包まれて何事にも代え難い至福の時間を過ごす。
学校で、家で、純と時間を共有できれば雪人は幸せを感じられた。
もちろん一生続くとは思っていない。
でも、もう少しだけこの幸せで満たされていたかった。
「美名子が来てる。外すけど、遅くなるだろうから先に休んで」
雪人にそう言って純は部屋を出て行った。
主のいない部屋に一人きり。
いつも来ている部屋なのに酷く心地悪く思った。
「何しに来たんだろう」
夜、許嫁が家に訪れる理由が思い浮かばない。
一人で勉強を進めたものの二十分程過ぎた頃、喉の乾きを覚えた雪人は飲み物を取りに部屋を出た。
長い廊下を通り客間を過ぎる時、ドアがほんの少しだけ開いていた。
閉めようとしてドアノブに触れると、隙間からベッドの脇に立つ純の姿が見えた。
覗くつもりは無かった。
だが、純の背中越しに見える女は純に抱きついているようで…しかも布地を纏わない艶めかしい腕と脚が純に絡みついていた。
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