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第12話

「雪人…どうなの?」 変わらず純からは雪人の顔が見えない。 ずっと黙る雪人に純は言い方を変えた。 「…雪人は…誰が相手でもいいんだ」 意地の悪い言葉を放った途端に、雪人が純の方に顔を向けた。 目を見開き涙をじんわりと溜めている。 でも、雪人は何も言わない。 …何も、言えない。 純は唇が触れ合う位に雪人と距離を詰め、見下ろしながら言った。 「雪人、これは僕と雪人の秘密。誰にも言ったらダメだよ」 純はまるでいたずらっ子のような目をしてそう言い、ティッシュで汚れた手を拭き自分のベッドに戻って行った。 だが雪人は違った。 雪人は狩られたウサギのようだった。 檻の中で黙って怯えるしか出来無い。 睨まれてしまえば逃げることを諦める。 …僕は捕らえられてしまった。 布団を被り雪人はそう思った。 純は少し離れたベッドで雪人に背中を向けていた。 眠っているのだろう。 雪人は眠れなかった。 眠れずさっきの出来事を反芻している。 純の体温、匂い、話す時に掛かる息…。 そして自分の手しか知らなかった場所が純に暴かれる悦び。 自分はどうなってしまうのか。 今まで知らなかった扉が音を立てて開かれた。

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