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第25話
雪人は緊張していた。
学校は冬休みで今日は一人家で勉強をする予定だった。
気が向けば純の部屋に行って一緒に勉強をしたりティータイムを過ごそうかとも思っていた。
だが、昨日は純の部屋に泊まり今朝帰って来たこのタイミングでよりによって芳人に捕まろうとは。
「雪人、こっちへ来なさい」
「…はい」
雪人はこの父親の前では常に“YES”という他は無い。
この家において、父親は絶対なのだから。
逆に言ってしまえば従っていさえすれば問題は無かった。
…今までは…。
クリスマスの今日、いつもなら芳人は帰って来ない。
だが今日はきっと許嫁のことがあるから家にいるのだ。
許嫁の梨花について雪人は何も知らなかった。
誰も教えてくれないし、興味も無い。
誕生パーティのあの夜に、初めて梨花の存在を知ったのだ。
居間のソファーに座る雪人の目の前に、芳人は薄い冊子を投げ渡した。
「今日こそは…いいな…」
…何を?
とは言えなかった。
いくら子供じみた自分でもそれ位は想像出来た。
「…はぃ…」
ほとんど声など掠れて、おそらく芳人の耳には聞こえていないだろう。
だが“NO”という選択は雪人には無かった。
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