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第26話

芳人に渡された冊子をパラパラ捲ると、それはいわゆる梨花の身上書だった。 梨花の出生から現在までが纏められていた。 年齢は雪人より一つ年上で、純の許嫁である美名子と同じ学校に通っていた。 たったそれだけを見て、雪人はそれをテーブルに放った。 ソファーにずるずると身体が沈んでいく。 「下らない」 雪人が欲しいのは、この女ではない。 …それでも… 純のようにしなければならない。 あの時の純のように…女と交わらなければ…芳人に叱責される…。 雪人は深く息を吐いた。 夕方、梨花が一人で雪人の住む家にやって来た。 早めの夕食を二人で取ったが雪人は緊張と不安で食事がほとんど喉を通らなかった。 だが有難いことに父親の芳人は今朝雪人と顔を合わせて直ぐに家を出て行った。 三人で気まずい夕食を取るならまだ二人の方がマシだ。 ただ黙っている雪人に梨花は何も言わない。 梨花も、自分に興味が無いのでは…と雪人は考えた。 ただ親の望む事実を作り上げたい…それだけなのかもしれない、そう思った。 当たり前のように夕食を取り、湯に浸かり、梨花は雪人の部屋にやって来た。 花柄のトレイに淹れたての紅茶を乗せて。 「雪人さん、どうぞ」 そう言って紅茶を差し出す梨花はシルクのネグリジェを見に纏っていた。 全裸でない事に雪人はほっとし、一呼吸置いてから差し出された紅茶に手をつけた。 「ここは客間じゃないよ?」 素知らぬ振りをして雪人はそう言ってみた。 「いいえ。今夜はこちらのお部屋にお邪魔するように言われてます」 「でも…僕は…」 雪人は最後まで言葉を言えなかった。 茶器が絨毯に音をたてて落ちた。 梨花が雪人に抱きつき唇を重ねてきたのだ。

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