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第33話

クリスマスが過ぎると家の中は正月を迎える仕様に変わっていく。 家の外に門松が置かれ、玄関には松やら何やらの生け花の大作がいつの間にか出来上がっていた。 親戚とはいえ人様の家の中をうろつくのはいささかマナー違反にあたるので、雪人は純の部屋からはあまり出ないのだがこの日は違った。 純と朝食を食べた後、叔父である真人に純から渡された物を届ける為、屋敷の中を歩いていた。 純から渡されたのは真人の万年筆だ。 真人のお気に入りのものを純の部屋に忘れたらしい。 純は手が離せないと言って雪人にそれを託した。 …でも、わざわざ僕に持って行かせるほど純は忙しそうじゃないのに…。 真人の書斎のドアを二度ノックをして開けた。 書斎にいると純は言っていたがそこに真人の姿は無かった。 「寝室かな…」 真人の寝室には子供の頃に一度だけ入った事があった。 そもそも、もう朝というには遅いこんな時間に寝室にいるのだろうか。 でも、思い当たるのはここしかない。 ノックをしようと手を握ると中から声がした。 「…やめろ!」 それは父、芳人のものだった。 声を荒立てている。 ノックしかけた雪人の手が止まった。 …なぜ父がこんな時間に真人の寝室にいるのだろう…。 雪人の心に不安が広がっていた。

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