35 / 186

第35話

足元を見る雪人の視界に影が掛かった。 目の前に純の手が差し出されている。 「僕が返してくるよ」 …今、行ったらダメだ…。 「僕が…また返しに行ってくるよ」 純の顔を見上げて答える。 「そう?」 じゃあよろしく、と純は体の向きを変え雪人はほっとした。 アレは自分の胸だけにしまっておこう、と思った。 芳人と真人の謎に包まれた関係。 …いや、そもそも謎なんてないはず。 …どこにでもいるただの兄弟。 …ちょっと家が大きくて、しきたりが面倒な…。 …僕がおかしな方向に考えているのか…? 雪人の勝手な推測はどんどん深みに嵌っていく。 「雪人、勉強しよう」 思考が中断された。 そこにはいつものように微笑む純がいた。 「休憩しようよ。いいお菓子があるんだ」 なぜかいつもより純の機嫌が良かった。 気付いたのは雪人だけ。 ウキウキしてるような、はしゃいでいるような、 こんな純はレアだ。 「僕、お茶をもらってくるよ」 雪人は純の部屋を出た。 室内とはいえ暖房のない廊下は寒い。 体がブルっと震えた。 今年ももう終わろうとしている。 窓は結露していて外の様子がよく見えないが、今日は厚く黒い雲が天を覆っていた。 「雪…でも降るのかな」 口に出して言ったものの、雪人は雪が嫌いだ。 雪は全ての物を真白いその体に隠す。 雪は嫌い。 真実も、家族も隠すから。

ともだちにシェアしよう!