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第36話

大晦日を明日に控えた今日、雪人は特に予定も無く居間のソファーに身を任せていた。 一番端の角に体をすっぽりとはめ込み、反対側は大きなクッションで壁を作る。 学校の宿題も純と二人で進めた結果、予定より捗ってもうほとんど終わってしまった。 する事も無く、読みたい本も無く、純はどこかへ出掛けたようで雪人はなんとも居心地がよろし くない。 この家の主である真人も昨日の朝から姿を現していない。 雪人は自分の身を持て余していた。 「ん…」 人声がする。 どうやらソファーで眠っていたらしい。 柔らかなブランケットが雪人の体に掛けられていた。 …居心地が良すぎるのも困るな… そう思っても瞼は重いままで少しでも気を抜くとまた夢の世界に連れていかれそうだった。 「…今晩…時に…」 …今晩?何時だって? 「…ん…」 小さな声で断片的な単語だけ、耳に入ってきた。 寝返るように体を動かし、ずり落ちそうなブランケットを掴んだ。 「…と…」 …僕の名前を呼んでいるの? だが、雪人は夢の世界に戻っていった。 「…風邪ひくよ、雪人」 頬を撫でる指が心地いい。 外気に触れていたせいか純の指先の体温は下がっていた。 その指が雪人の髪をかきあげ、額に触れた。 「いつも隙だらけなんだな」 …ちがう。 心の中で否定した。 …無防備でいられるのは…お前の前だけだ… 微睡みの中でそう思った。

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