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第55話

…代償…? 「父さん!」 普段声を荒らげる事の無い純が大きな声で真人の話を遮った。 「…それは…後で僕から話すから」 じわっと雪人の胸に広がる不安。 …何だか酷く嫌な感じがする… シャツの胸を掻きむしるように握り、雪人は純を見つめた。 「芳人さんと話をしたんだ」 …純と父さんが…? …一体何について…? 頭の中に疑問符がちらちら見え隠れする。 …何を? 純に素直に問えばいいのに、その一言が言えない。 いつもいる純の部屋なのに落ち着かず、雪人は両手を膝の上で握った。 「…だから雪人は何も心配する事はないよ」 純の親指がベッドに座る雪人の唇を愛おしく撫でる。 慈愛に満ちた眼差しの奥に寂しさを滲ませて。 「今日は少し忙しいから…明日の雪人の時間を僕にちょうだい」 「…今日は…僕だって忙しいんだ。明日なら…ちょっと位いい」 不安な胸の内を悟られないよう雪人は虚勢を張った。 雪人に用事なんか無いのは純だって知っている。 「ありがとう。明日…ね」 名残惜しく唇の感触を確かめて、純は雪人に背を向けた。 …背中… …いつか見た羽は幻だったのだろうか? 欠片も見出すことが出来ず、その思い出は雪人の心を曇らせるだけだった。

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