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第56話

冬は終わり、いつの間にか春になっていた。 春が過ぎればまた冬が訪れ…雪人は高校を卒業し、大学生となっていた。 でも、いつも隣にいた純は、いない…。 講義を聞き終えてゼミの教授の元へ出向く。 山のような本を抱えているのは、あれこれと資料を欲張ったせい。 たった数年の大学生活の中で、卒業に向けて今からいろいろ準備を進めておかなければならない。 しなければならない事が多く、ため息が出る。 開いた窓から流れ込む冷たい空気に気づいて足を止め、講義棟の窓から外を眺めた。 …寒い… …純はどうしているのだろう。 一人で過ごす幾度目かの冬。 純と離れてから梨花と会う事は無かった。 …それはきっと純のおかげ。 …分かっている。 …でも… 寂しさで雪人の胸は押しつぶされそうになっていた。 「白鳥沢くん」 名を呼ばれて振り向くと人懐っこい笑顔の男が立っていた。 「…大木」 「佐野助教が呼んでましたよ」 …怖い… 笑顔の下に僅かに見え隠れする感情が。 雪人より二十センチ余り高い位置から見下ろす目が。 「こっちが終わってから行くから…ぁッ」 バランスを崩して持っていた本が腕から崩れ落ちる。 「…!」 咄嗟の出来事だった。 本と一緒に雪人は大木に抱きしめられた。

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