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第58話

大学進学を機に、雪人は家を出た。 純のいない親戚の家にいる意味も無く、まして実家で父と顔を合わせる生活も限界だった。 あっさりと家を出る了承は得られ、雪人は大学近くのマンションに一人で住んでいる。 誰もいない家の暗い玄関を入り、吐く息が白くなる室内に明かりを灯す。 エアコンのスイッチを入れてから上着をハンガーに掛け、ベッドに身を投げた。 …疲れた… …講義を聞き要点をまとめ論文の準備をしただけなのに、今日はやけに疲労を感じた。 …あいつ…大木… …一年遅く入学してきたくせに、やけに絡んでくる。 今日はアクシデントとはいえ、抱かれてしまった。 思い出して、雪人は軽く身震いした。 大人の男の、大きな身体に包み込まれる感触、体温、匂い… 数年前に感じた純の…雄のそれを鮮明に思い出して見悶えた。 昂りを見せる自分… エアコンが無機質に空気を混ぜる音だけが部屋に響くなか、ズボンを下ろし下着の中に手を入れた。 「…ッ…」 …慰めるのはいつぶりだろう… ゆるゆると擦り、気持ちを集中させる。 「あ…ああ…」 純にしてもらったように、過去を思い出してその通りになぞっているのに… …もう…その記憶が遠いものになりつつあった。

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