58 / 186
第58話
大学進学を機に、雪人は家を出た。
純のいない親戚の家にいる意味も無く、まして実家で父と顔を合わせる生活も限界だった。
あっさりと家を出る了承は得られ、雪人は大学近くのマンションに一人で住んでいる。
誰もいない家の暗い玄関を入り、吐く息が白くなる室内に明かりを灯す。
エアコンのスイッチを入れてから上着をハンガーに掛け、ベッドに身を投げた。
…疲れた…
…講義を聞き要点をまとめ論文の準備をしただけなのに、今日はやけに疲労を感じた。
…あいつ…大木…
…一年遅く入学してきたくせに、やけに絡んでくる。
今日はアクシデントとはいえ、抱かれてしまった。
思い出して、雪人は軽く身震いした。
大人の男の、大きな身体に包み込まれる感触、体温、匂い…
数年前に感じた純の…雄のそれを鮮明に思い出して見悶えた。
昂りを見せる自分…
エアコンが無機質に空気を混ぜる音だけが部屋に響くなか、ズボンを下ろし下着の中に手を入れた。
「…ッ…」
…慰めるのはいつぶりだろう…
ゆるゆると擦り、気持ちを集中させる。
「あ…ああ…」
純にしてもらったように、過去を思い出してその通りになぞっているのに…
…もう…その記憶が遠いものになりつつあった。
ともだちにシェアしよう!