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第61話
「あっ…あぁ…!」
強ばった身体から緊張が解け、荒い呼吸を繰り返す。
腹と腕に散った白く粘性のある体液を拭い、雪人は現実をふと見つめた。
「僕は…純に捨てられたのかもしれないな…」
それは三年以上純から何の連絡もない事からも容易に推測出来た。
あの日は約束通り一日中雪人と純は一緒だった。
何度も体を重ね、触れ合い、微睡む。
視線が交わるだけで高揚し、肌が触れ合うだけで官能の波に揺さぶられた。
…でも…
翌日の朝、目を覚ました時には純のベッドには雪人一人きりだった。
真人が言った“代償”という言葉が雪人の胸を刺す。
その言葉の意味を、雪人は知らないままで。
帰りたくはなかったのだが、久しぶりに雪人は家に帰った。
教授達の都合でいくつかの授業が休講となった金曜日、雪人は電車に乗った。
…出来れば実家には行きたくない。
だが必要な物は取りに帰らねばならない。
それなら、芳人や真人が休みの土日よりは平日の方がいい。
顔を会わせたくないのだ。
あの日、純がいなくなった日から雪人は真人との関係もぎこちなく感じていた。
自分のせいで純が真人の元を離れたと思ったからだ。
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