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第63話

どういう事なのか…? …“代償”の為に純は雪人の元から離れていった。 雪人は今の今まで、そう思っていた。 それが… …純が…梨花と…どうして…? 雪人の頭は混乱し、塀の影にしゃがみ込んだ。 純は自分の事を好きでいる、とずっと思っていた。 だが梨花と一緒にいるくせに、自分には何年も連絡を寄越さない。 …本当は違ったのか? 純への想いは雪人の一方通行だったのか。 自分だけが純に好意を寄せていたのだと、雪人は確信した。 車のエンジン音が遠ざかり、門扉の閉まる音がした。 ガシャン、と冷たい金属音がしてこの世界から自分は追い出されたのだと雪人は思った。 どこをどう通って帰ったのか記憶に無い。 気づいたらマンションに辿り着いていた。 きっと自分は捨てられたのだ。 父親からも、純からも。 無気力な感情に囚われ何もする気が起きない。 ふらふらとベッドに吸い寄せられ倒れ込んだ。 純が自分を想ってくれている、そう思って寂しくても何とか前を向いてやってきた。 だが… もう、どうでもいい…。 今、雪人は自分の殻に籠る事しか出来なかった。

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