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第64話

携帯電話が着信を告げる。 何度その音を聞いたことか。 ベッドに突っ伏して首だけを僅かに動かし、雪人は画面を見た。 “unknown” …誰だろう。 …誰でもいい。 再び意識を手放そうと瞼を閉じる… …だが呼び鈴が鳴らされ…まるで子供のイタズラのようにいつまでも鳴り止まない。 「もう…誰だよ!」 ゆるりと身体を起こし、ふらつきながらも玄関ドアを開けた。 「…誰…って!」 隙間から足が差し込まれ無理矢理開かれるドア。 慌てて手で押さえようとしてもぼんやりしていた雪人に間に合うはずもない。 「ズル休みですか?先輩?」 「…大木…」 大木は勝手にドアの内側に入り込み、後ろ手にガチャリと鍵を掛けた。 「顔色悪いですね。熱は?」 否応もなく額に触られる。 「ん〜無いみたいだけど…」 雪人は大木の手を払った。 「勝手に触るな!」 「…心配して様子を見に来た人にソレですか?」 「頼んでないし。そもそも具合も悪くない!」 はあ、と大きく息を吐いて雪人を見下ろす。 「失恋…とか?」 大木に指摘され、雪人は身体を大きく震わせてしまった。 「…ぁ…何…で…」 不意打ちの質問に動揺しなければバレなかったはずなのに…。 大木は顔色一つ変えずに雪人の部屋に上がり込み、雪人は大木の侵入によって部屋の奥に後ずさりしていた。

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