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第67話

「も…もう起きる…から…」 そう言って起き上がろうと身体に巻き付く大木の腕を外そうとした。 「ダメ」 キツく抱かれる。 「俺が眠い…抱き枕になって」 大学に来いと人の家に上がり込んで文句を言った本人がその家のベッドで眠いとのたまう。 「ふふ…自由だな…」 「そこはお互い様でしょ」 …ああい言えばこう言う。 …でも、そんなに悪いやつではない… 嫌いだった後輩に少し心が柔らかくなった気がした。 大木が雪人の部屋に来た次の日から、雪人は再び大学に通うようになった。 純の事はショックだったが雪人から純に会いに行くという選択肢は無かった。 頭の中で常に純を意識しながら、でも普段と何も変わらない体(てい)を装い勉学に励む。 「辛い…」 雪人の心は小さな悲鳴を上げていた。 その日は黒く厚い雲が空を覆い、朝からやけに冷え込んでいた。 雪人は前日の夜遅い時間までレポート用の資料を纏めていたせいで珍しく寝坊してしまった。 大学の講義の時間には間に合ったが暖かい室内で聴講するうちにうとうとと夢の世界を彷徨い始めた。 「白鳥沢くん…」 はっとして顔を上げると助教の佐野が雪人を見下ろしていた。 「もう終わったよ。珍しいね」 まだ学生達の姿がまばらにあり、講義が終わってそれほど時間が経っていないようだった。 「…すみません…」 いつもはきちんと聞いていたのだが、今日はうっかり佐野の講義で居眠りをしてしまった。 雪人は叱られるのかと身構えたが、佐野はいつもの物腰の柔らかい雰囲気のまま雪人に話しかけてきた。 「この後は?」 「図書館に寄ってから帰ります」 「少し話さないかい?さっきの講義の補講をしてあげるよ」 …補講…それは有難い。 「じゃあ少しだけ…」 佐野の後に続いて席を立つ雪人。 この二人のやり取りを大木が見ていた。

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