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第69話
「な…何…?」
佐野の様子がいつもと違う。
口角は上がっているのに…目が、笑っていないのだ。
「君の…一途に誰かを想う顔…」
雪人の手を握って佐野は自分の口元に近づける。
佐野の唇が雪人の手の甲に触れ、雪人は驚きの余り言葉を失った。
「…堪らない…」
…嫌…
背中に悪寒が走った。
純と大木には触れられても大丈夫だったのに、佐野には嫌悪感しかない。
「…今すぐ恋人になれ、なんて言ってない」
じっと見られると恐怖心に心が捕らわれる。
「やっ…」
雪人は佐野の腕を振りほどいた。
「…君は僕の物になる…」
…怖い…逃げなきゃ…
足がすくんで上手く動けない。
「あっ!」
よろけてローテーブルに手を着くと、後ろから抱きつかれた。
「ひッ…」
「危ないなぁ」
「…ぁ…ンン!」
…どうして?
…上手く声が出せない。
…身体が…重い…
雪人は体から力が抜けていくような感覚に襲われた。
「おや、具合が悪そうだ。こっちにおいで」
佐野の口元が歪(いびつ)に笑う。
ドアの奥はプライベートルーム。
佐野はドアノブに手を掛け、抱き上げた雪人と共に暗い部屋の奥に入って行った。
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