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第71話

身体の中に灯った小さな火種は燻りながら消えることなくその形(なり)を潜めていた。 大木に抱きしめられ、燻っていたそれは雪人の意志と関係なく本来の欲望を現し始め… …そして佐野の強引な手管によって強風で煽られたように勢いを増す。 …欲しい… 意思も記憶も混濁する中で欲望だけが形を顕にする。 少なくとも雪人の意思は佐野を拒絶していた。 …だが… …その身体は佐野であろうが、純であろうが関係なく快楽を欲している。 純にかけられた呪いなのか… …雪人の身体は快楽を求めて… …やっと… …やっとチャンスがやって来た… …小さな焔が… …燃え盛り狼煙を上げ始める… …水音がする …これは…純…? …やっと…僕に会いに来てくれた… ? …捨てた僕を…迎えにきてくれたの? …あぁ… …胸が…胎が… …キモチイイ… …そう…もっと…責めて… …僕を… …僕の身体に… …純を…頂戴… 言い争う声で雪人は目を開けた。 誰かが怒鳴っている。 だがそれは音に聞こえ、意味は分からない。 朦朧としているせいか言葉として耳に入らないのだ。 真っ暗な視界が明るくなり焦点が合ってくると見覚えの無い部屋の天井が見える。 …ここは…どこ…? 「痛っ…」 頭が鈍く痛む。 …そうだ、佐野助教に… 雪人はソファーに身体を押し付けるようにして起き上がった。 はだけていたシャツのボタンを震える指で留め、だらしなく下りたズボンもぎこちない動きで直した。 そしてふらつく身体で立ち上がり、壁伝いに声のするドアの方に向かった。

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