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第77話
あの事件があってから雪人は大木と幾度か校内ですれ違ったが、特に話かけられる事は無かった。
…ただの先輩と後輩…
視線が一瞬絡んでも、通り過ぎるだけ。
また、雪人は一人になっていた。
校舎の端にかき集められた雪が溶ける前に、再び厚い雪雲が空一面覆った。
空模様が怪しくなったのに気づくのが遅れたのは少し頭がボーッとするせいだった。
講義棟を移動していた雪人は朝よりも気温が下がった外気にブルっと震えた。
「上着…着てくれば良かった」
…走るか…
普段なら構内を走るような事はしないのだが、今日は薄着でやけに寒く感じる。
早く温かな場所に行きたくて雪人は校舎を出てすぐに走り出した。
その時偶然目の端に大木の姿が映り、気を取られた雪人は正面から歩いてきた人物とぶつかってしまった。
これは雪人の過失だ。
だが、ぶつかった雪人は逆に抱き留められていた。
「あの…すみません…大丈夫で…」
至近距離だったが、そのまま相手を確認すると…
「…雪人…」
何年振りに名前を呼ばれたのだろう…。
雪人は従兄弟、純の腕の中にいた。
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