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第79話

「それで、何の用?」 コーヒーを純の前に出し、雪人は正面に座った。 小さなテーブルを挟んでだが、雪人は純と向かい合う日が来るとは正直思っていなかった。 このまま…会わぬまま純の記憶から自分が消え去るのだと思い込んでいた。 「紅茶しか飲めなかった雪人がコーヒーね…」 …もう、子供じゃない… 純と会えなくなってから、雪人はより大人びた。 寂しさや不安を紛らわす為にひたすらに勉学に励み、周囲に打ち解けず殻に籠った。 人を寄せ付けない気高さは健在だった。 「アイツにどんな事されたの?」 純の手が雪人の手に重なる。 指先で甲を撫でられ、軽く握られた。 「そんなに…酷い事は…されてない」 …触れられた手が熱い…。 「ふうん…」 純の眉間がぴくりと動く。 「僕以外に“許す”なんて…寂しかったのかな?」 雪人は耳を疑った。 「…え?」 立ち上がった純が腕を取って雪人を立たせ、乱暴にベッドに転ばせた。 「しょうがないね、雪人は」 純が雪人の身体に覆いかぶさり、指先で顎を持ち上げて囁く。 「今日はいっぱい可愛がってあげるよ」 純は目を開けたまま、雪人に口付けた。

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