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第81話
「い…やだ…」
純の肩を押し、雪人は自由になった唇で純を拒絶した。
「どうして?雪人は僕の事を待ってたんでしょう?」
…どうしてって…
雪人は確かに心のどこかで純が迎えに来るのを待っていた。
だが、それは昔のままの純であったらというのが大前提であり、今の…女を抱く…彼ではない。
「やだ…嫌…」
いくら純に想いを寄せていても、あの悪魔のような女を抱いた手で触れられたくない。
「その手で…触らないで…」
消え入りそうな声を出すが、純は少しも気に留めない。
「ほら…」
子供の機嫌を取るように胸に抱えられて、雪人は純の身体に残る匂いに嫉妬した。
女の香水の匂いが純の腕や胸から漂ってくる。
きっと梨花をその胸に抱いたのだ。
悲しさと惨めな気持ちで胸がいっぱいになり、歯を食い縛っても涙が溢れた。
…自分は純に必要とされていない…。
…純の隣にいるべきは…自分ではないのだ…。
「泣いてるの?」
小刻みに震えるように泣いていたのを純に見られた。
止めることの出来ない涙がさらに雪人を追い詰めた。
「俺、雪人を泣かせるような事した?」
…いらない。
…そんな言葉は欲しくない。
雪人は激しく首を振り、唇を噛んだ。
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