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第83話

「ん…あれ?」 目の前が真っ暗になって身体がふわりと宙に浮いた。 僅かな痛みと共に目を開ければそこは白い天井に白いベッド。 …さっきまで図書館にいたはずなのに… 倒れて気を失っている間に医務室に運ばれたようだ。 薄い水色のカーテンで仕切られたその空間は消毒薬の匂いがして雪人の頭はクラクラした。 「誰…?」 そっとベッドから降りて声のする方のカーテンをずらすと…白衣を着た男性と純が話をしているようだった。 「純…」 ドキンと心臓が大きく打つ。 「…あ…」 ズキッと頭が痛み突然目の前に白と黒の砂嵐が出現した。 咄嗟にカーテンを掴んだが、雪人は前のめりに倒れ込んでしまい、したたか胸を打った。 「白鳥沢さん、大丈夫ですか!」 …近づいてくる白衣と…動かない純… 雪人の視界は瞼を閉じる前に悲しい現実を映していた。 雪人が消耗しているのは誰が見ても明らかで、校医の勧めもあり雪人は一旦実家に戻る事になった。 実家といっても芳人の家ではなく純が住む真人の家。 しばらくの間だが再び雪人は純と真人と三人で暮らすのだ。 客間に僅かばかりの荷物を運び、雪人は肩を落とした。 ここにいたら見たくない物が目に入り、余計に辛いのは分かりきっていた。 …でも…純がいる… 僅かばかりの希望がある訳でもないのに… 「寒っ…まだ降ってる…」 窓の桟に雪が積もり始めており、雪人はどんどん心が冷えていくように感じた。

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