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第84話

真人と純と雪人、三人での暮らしは想像以上に静かなものだった。 芳人は夜に時々来ているようだが雪人にわざわざ会いに来ることは無い。 梨花に至っては会話の中にその名前があがる事も無かった。 純は昼間は居ない事の方が多く夕方には家に帰って来て何かと雪人を気遣う素振りを見せ雪人を喜ばせた。 充分な休養と周囲の監視によって、雪人の体調は何とか回復してきた。 実家から大学に通うならという条件で通学の許可が出たが、初めて一週間も大学を休んでしまい、雪人は少し戸惑った。 …誰かに講義の内容を聞かねばならない。 交友関係が豊かでない雪人はノートを借りるつてを持っていなかった。 …気が重い… そんな心配をしなければならない程に雪人はいつも一人だった。 講義の幾つかは真面目に聴講していた事とレポートが優秀だった実績もあって講師から補足資料を借りる事が出来た。 …真面目にやっておいて良かった。 趣味も何も無く、する事がない故に勉強に励んでいただけなのだが、雪人は心からそう思った。 …だが幾つかはノートを借りなければならない。 チャイムが鳴り講師が退席したタイミングで雪人に話し掛ける者がいた。 「白鳥沢さん、体調崩してたんですね」 「大木…」 …大木なら幾つかは聴講している講義が同じ… 雪人は大木を頼ってみる事にした。

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