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第87話
「純…」
自分以外の体温を求めて雪人は純に手を伸ばす。
その背中を撫で、指先に力を込めた。
小さな焔が燻る雪人の身体は官能という名の刺激を求めていた。
だが純の温もりは雪人から離れていく…。
「もう、休んだら?」
純は優しい言葉で雪人を遠ざけ、雪人には純の微笑みが空々しく見えた。
純からのキスで雪人はその先を期待したのに…。
この間は自分から純を拒絶したくせに、拒絶される事を雪人は想定していなかった。
女の影が見えると受け入れられない癖に、甘やかされると縋っていく。
「…純…おやすみ…」
心に黒い蟠りを残して雪人は部屋に戻った。
雪人は眠りに落ちる間際、純に抱かれた日の事を漠然と思い出した。
触れ合う肌の温かさ、唇がわななき震える快感…
…全てが幻だったのだろうか…
そう、思わずにいられなかった。
目が覚めたのは布団から身体が出ていたせいだった。
…寒いな…
…何か夢を見て…もがいたような…?
記憶を辿ったが、夢の内容は覚えているようで酷く曖昧だ。
起きた瞬間に忘れていく。
思い出せもしない事を考えながら、雪人はベッドを出た。
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