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第88話
「白鳥沢さん」
図書館でぼんやりと本を眺めていた雪人はハッとして顔を上げた。
講義が一つ休講になって雪人は図書館で読書をしていたのだが今ひとつ集中出来ずにいた。
「大木…何?」
「この間のノートなんですけど…」
大木がファイルを差し出す。
「…これで全部です。どうぞ」
「ありがとう。…お礼は何がいい?」
目を見開いて大木は驚いた顔をした。
高い物や入手困難な物は困るが、大木の申し出によって雪人は思いの外苦労をせずに目的が達成できたのだ。
少しくらい感謝の気持ちを表したい。
「…考えておきます。それじゃあ」
大木は即答せずに行ってしまった。
…自分でも何か良さそうな物を探してみるか…
雪人は再びぼんやりと本に目を落とし、あれこれと考え始めた。
家に帰るとちょうど真人も帰宅した所で玄関で鉢合わせた。
「雪人、無理してるんじゃないのか?」
顔色のすぐれない雪人を気遣って真人が雪人の額を撫でた。
小さな子供にするように額から髪の毛を優しく撫でられ、雪人は強請るように頬を擦り寄せてしまう。
…もっとして欲しい。
もちろん口に出す事は無かったが雪人を見つめる真人はまるで自分の子供を心配しているようだ。
「大丈夫です」
視線を不自然に外して雪人は真人に背を向けた。
触れられるのは嬉しかったが、雪人の胸の内はそれだけでは無かった。
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