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第90話
「大学はどうだい?雪人」
食卓の向こう側から真人が雪人に声を掛けた。
「勉強に集中出来るし、尊敬出来る教授の講義はとても興味深いです」
今更だが、初めて大学生活の事を真人に聞かれた。
当たり障りのない返事を真人に返して雪人は食事を続けたのだが、純が雪人に意味深な視線を送っている事に雪人は気づいていた。
…何だろう?でも…
自分はもう子供ではないのだから、あまり深く純とは関わらない方がいいのかもしれない…雪人はそう思った。
「何かあったら言いなさい。私なら力になれる」
真人の言う“何か”…。
…もう、過去の事だ。
「…はい。ありがとうございます」
雪人はテーブルの下で拳を固く握った。
「…もうこんな時間…」
時計は夜十一時を指していた。
んっ…と伸びをして雪人は風呂場に向かった。
広い浴槽に1人で浸かり、身体を清める。
勉強に集中しているつもりでも気を抜くとすぐに不埒な事を考えてしまう。
目を開けて鏡に映る自分に問い掛けた。
…僕は…どうしたい…?
鏡の中の自分は雪人に何も答える事はなかった。
火照る身体が冷めないように部屋に戻ると純がベッドに座っていた。
ベッドサイドにはワインのボトルとグラスが二つ。
チーズのツマミまで用意してある。
「昨日は赤だったから今日は白。飲むだろ?」
飲みたい訳では無かったが…アルコールに対する興味も若干あって雪人はグラスを受け取った。
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