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第97話

…彼はどんな風に恋人と過ごすのだろう… 雪人にとって、恋人、という存在はとても不思議で擽ったい響きを持っている。 手を繋いだり、くすくすと笑いあったり、雪人は思いつくイメージを頭の中で想像した。 …ダメ… フワフワした浮かれた行動しか思い浮かばない。 …遠足前の小学生並の想像だ… …明日…大木と恋人ごっこ… 布団をかけ直し、雪人は横を向いて小さく丸くなった。 大木と約束したのは明日、金曜日の昼からだ。 …朝になったらマンションに戻ると純に伝えて…それから… 考えながら、雪人は眠りについていた。 「で、どこかに行く?」 講義が終わって待ち合わせに来るなり、雪人は大木にそう言った。 「あの…」 大木は怒っている。 KY気味な雪人ですら分かるように眉間に皺が寄っていた。 「何?どうしたの?」 はあー、と深く息を吐いて大木はそっぽを向いた。 「なにがいけなかった?言ってくれないと分からない…」 今日は楽しい日になるかも、と雪人は期待していたのだ。 それなのにこれでは先が思いやられる。 「『 会いたかった』とか『 お待たせ』とか無いんですか?恋人でしょ?」 「え…」 …そこから…? 恋人役の彼は、頬を膨らませて口を尖らせている。 「わかったよ」 雪人は大木の正面に立ってにっこり微笑んだ。 「待たせたね、会いたかったよ」 大木は満足気に目元を緩ませた。

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