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第101話
「なあ、怒ってる?」
大木は黙って歩いている。
雪人は大木のジャケットの裾を指先で摘んで斜め後ろから機嫌を伺っていた。
「…怒って…ないです…」
「…なぁ…!」
…嘘つき!
雪人は猫カフェでの事を振り返った。
結局、雪人と遊んでくれたのはあの子猫だけだった。
羽の付いたおもちゃで散々遊んだ後、なんと雪人の膝に乗ってスリスリと頭を擦り寄せ甘えてきた。
そこから先は抱っこしたりおやつをあげてみたりとそれはもう“猫っかわいがり”の極みをし尽くした。
その間大木は相変わらず猫ハーレムを築いていたのだが、雪人が子猫に取られてしまって拗ねていたのだ。
「恋人を猫に取られた」
ボソッと呟くが、雪人には聞こえない。
「ね、機嫌直してよ」
大木の足がピタッと止まった。
「じゃ、ソコに入りましょう」
指差す先は…時間制宿泊施設。
いわゆるラブホテル…。
「や…やだよ…」
「機嫌、直しますよ?」
距離を取り始める雪人の手首を大木は掴んだ。
「だ…だって…ヘンな事するだろ?」
「ヘンな事って何ですか?」
「ヘンな事はヘンな事だ!」
…そんなの口に出せるか!
「か…体触ったり…」
雪人は語彙力のない漠然としたイメージをとりあえず口走った。
「じゃあ、触ってって言うまで触りません」
「…えッ…?」
「それならいいでしょ?」
…それならいい…のかな…?
…ホントに?
二人の足は狭くてあやしいビルの入口に向かった。
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