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第108話

見慣れぬベッドで浅い眠りから覚めた雪人は頬の下の温もりを受け入れられずにいた。 緩く大木の胸に抱かれて眠っていたようだ。 …こんな風に…大木と…するなんて… 流れでも“恋人ごっこ”を了承したのは間違いなく雪人自身。 だが雪人には想い人、純がいる。 雪人は純の事が子供の頃から好きだった。 一時期は疎遠になってしまったが、“恋人”になって欲しいと言われて雪人はすっかりとその気になっていた。 …浮気になるのかな…? でも、まだ正式に了承してないし…などと考えていた。 「どうしたんです?」 「…何も…」 「嘘…。なーんてね」 至近距離で笑う大木に雪人は何とも言えない罪悪感を覚え、目を逸らした。 そんな雪人の心の内を知ってか知らずか、大木は雪人の瞳をじっと見ている。 「今だけ、俺を、見て」 いつになく真剣な顔で雪人を見つめる。 「…うん」 雪人は、“今日だけだから”と自分に言い聞かせた。 二人でシャワーを浴びてホテルを出ると街はもう夜の顔を見せていた。 行き交う人々は騒々しく、酒やタバコの匂いが鼻を掠めた。 「もう何もしませんよ」 そう言う大木の言葉を信用して、雪人は大木の部屋に行った。 明日の昼まで大木の“恋人”で過ごすために。

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