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第110話
「ほら、これでいいでしょ?」
大木は雪人のシャツのボタンを外し、置いていたワイングラスを手に取った。
「…え…?」
…外すだけ?
…てっきり…
雪人が想像していたような事は起きなかった。
再び大木にいやらしい事をされるのだと思っていたのだ。
二人で淡々とワインを飲み、最後のピンク色の液体を喉に流し込む頃には雪人はもう半分眠っていた。
大木は雪人の手からグラスを離し、その体を持ち上げるとベッドに寝かせた。
「う…ん…」
雪人の身体がもぞもぞと動いた。
いつもは白い喉も今はアルコールのせいでうっすらとピンクに色づいている。
大木はのぞく鎖骨に唇を近づけてジュッと吸った。
「ン…ぁ…」
…眠っていても反応するんだ…
「俺の言う事なんて律儀に聞かなくていいのに」
すやすやと寝息を立てる雪人の顔を見下ろして大木はため息をついた。
雪人がいい匂いにつられて目を覚ますと、目の前には朝食が用意されていた。
「起きられますか?」
こくんと頷き脚を下ろした。
小さなテーブルに二人分の食事が所狭しと並んでいる。
「大したものはないんですが、どうぞ」
もともと食の細い雪人にはご飯、味噌汁、目玉焼きの朝食なら十分過ぎる量だ。
「いただきます」
…食事を作った相手と一緒に食べる…何年ぶりなんだろう…
いつもと違う朝に雪人は少し戸惑った。
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