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第111話

朝食後は大木が家事をしているのをいい事に、雪人は大木の部屋にある本を読み漁った。 気づけば雪人の隣には大木が居て、同じく静かに本を読んでいた。 …居心地がいい。 こんなに心が安らぐ時間を過ごすのは久しぶりだった。 約束の一日はあっという間に過ぎ、二人は大学の目の前にいた。 「俺の我儘に付き合ってもらって…ありがとうございました」 「いや、そういう約束だったし…」 …約束はしたけれどいやらしい事をしていいとは言ってない。 心の中で雪人はそう追加した。 雪人の本心は…大木の事を拒絶するほど嫌では無かったのだが、純の存在がそれを隠していた。 雪人は大木と別れ、自分の部屋に帰ってきた。 一人暮らしの部屋は他人に気遣うことも無く快適そのものだ。 だが、一日とはいえ大木とそれなりに過ごした後ではもの寂しく感じた。 「勉強でもするかな」 机に向かって引き出しを開ける。 指がノートに当たり、ファイルの端が見えた。 ノートをどけて下のファイルを取り出し指でなぞった。 「お母さん」 写真の母はいつも幸せそうに微笑んでいる。 もう一度指でなぞった時、携帯が震えた。 ビクッとしてファイルが指から滑り落ちても途切れること無くそれは雪人を呼ぶ。 「もしもし…」 純からの着信。 「…うん…うん…えっ?」 携帯をギュッと握った。 「…分かった」 通話を終了し、雪人は深く息を吐いた。

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