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第112話

「雪人、よく来たね」 夕暮れ時、つい何日か前まで住んでいた家に呼び出されて玄関を入ると純が雪人を出迎えた。 …嫌な予感がする…。 …せっかく黒瀬家を出てマンションに戻ったというのに…。 「…それで?用事って?」 「お茶でも飲んでそれから、ね」 電話では詳しく言えないからと無理に呼び立てられ、雪人は多少苛立っていた。 暖かな居間で純が雪人の為に紅茶をいれるとふわりと鼻を掠めるフラワリーな香り。 「雪人、今日のお茶はね…「純!」…」 茶器を差し出す純の言葉を雪人は遮った。 「どうして僕を呼んだの?」 「大切な話があるから」 「どんな?」 「…代償…覚えてる?」 雪人はゴクッと唾を飲み込んだ。 純の問いかけに こくんと頷くが、額から汗が滲んでいた。 「…それを清算したいんだ」 「清算…?出来るの?」 「うん。でもね、雪人…」 純が雪人の肩に触れた。 「どうしても君の協力が必要なんだ」 …元はと言えば、僕がまいた種。 …そのせいで多分…純は僕から何年も離れて…。 「…分かった。協力する…」 肩に置かれた手に僅かに力が入る。 「ありがとう。さあ、お茶を飲んで、雪人」 勧められるまま雪人はカップに口を付けるが、純の目はじっと雪人を捉えたまま離さなかった。

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