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第113話
純は詳しい話をすることも無く、雪人と少し早い時間に夕食を取った。
真人がリクエストしたのか食卓には和食が用意されていた。
だが真人はまだ帰宅していない。
主のいない食卓には純と雪人の二人きり。
いただきます、と唱えて箸を持ち味噌汁に口をつけた。
若干純の表情は硬い気がするが、雪人は思い切って胸に引っかかっていた言葉を口にした。
「純、突然居なくなったよね。どうして?」
純はゆっくりと咀嚼して、それから雪人を見た。
「知りたいの?」
「…うん」
箸を置き、指を組む。
「アメリカの大学に行ってた」
「どうして?」
「それが雪人から梨花を遠ざける条件の一つだったから」
…一つ、ということは他にも条件はあるのだ。
胸が苦しくなる。
きっと、それは辛いものだから。
「…他の…他の条件…は…?」
不安な表情で純を見ると、純は黙って薄く微笑んだ。
「後で…教えてあげるよ」
再び箸を取り、純は食事を続けた。
雪人が湯船に身を沈めると ぴちゃん、とお湯が跳ねた。
お湯は肌に柔らかく、室内は湯気で白く曇っている。
「はぁ…」
夜遅くなるとは言われていたが、純から泊まっていけと言われるとは…。
…風呂に入ればモヤついた心が幾分かスッキリすると思ったのに…。
濡れた髪を掻き上げながら雪人は純に何があったのか想像した。
だがアメリカに留学したという情報だけではそれもすぐに行き詰まってしまった。
「純が…話してくれるのを…待つか…」
口元までお湯に浸かって雪人は目を閉じた。
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