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第114話

「雪人、そこに座って」 風呂から上がると部屋に純がいた。 今日はいつも泊まっているほぼ雪人専用の客間ではなく、外からの客を迎え入れる為の部屋に通されていた。 広さは倍以上あり、もちろんベッドも大きい。 雪人は皺ひとつ無いベッドの端に腰を下ろした。 「いつもの部屋の方が落ち着いていいのに」 一言文句を呟いたが純は笑顔を顔に貼り付けていた。 「雪人、代償についてまだ聞きたいと思ってる?」 足を組んで椅子に座りいつもと様子の異なる純に少し迷ったが、雪人は頷いた。 「一つ目は留学。海外の大学を卒業すること」 純は雪人の目を見て、ゆっくりと話した。 「二つ目は、それを雪人に言わない事」 「…だから何年も会えなかったのか…」 雪人は純を見つめ返すが、純は口を閉ざした。 「ゴメン…知らなくて…」 雪人は恥じた。 何も知ろうとしないまま自分は純に捨てられたと思い、一人でいじけていたようなものだったから。 「一人で勘違いして…寂しかった」 雪人の目にみるみる涙が溜まる。 いつの間にか雪人を見下ろすように目の前に純が立っていた。 純の両手は雪人の頬を包み、親指で涙を掬った。 「雪人…やっと帰ってきたね」 純の顔が雪人に近づき唇が重なる。 唇は自然と開き、雪人は純を受け入れた。 …あぁ…純…純…。 口付けは懐かしく塩っぱい味がした。

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