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第120話

変わりない日常。 いつもと同じ生活。 雪人は今日もまた図書館に来ていた。 ふぅ、と息を吐いて読んでいた本を閉じる。 閲覧室の机の上、重なって置かれた専門書は十数冊だがまだ足りないのだろう。 雪人は席を立ち書棚の間に身を滑らせ本を探した。 人差し指で表紙をなぞり、一つ一つタイトルを確認する。 上段を見上げて目を彷徨わせるとある場所で動きが止まった。 …あった… 口の形が誰にも聞こえない言葉を紡ぐ。 キャスター付きの脚立を棚に寄せて三段、四段と登り一番上に腰を下ろした。 正面に腕を伸ばしてお目当ての本を手に取る。 パラパラと捲って文字を指でなぞり…次のページをはらり…。 「雪人」 「……あ!」 不意に名前を呼ばれて驚き立ち上がった雪人は足を滑らせた。 …落ちる… 目を閉じ身構える。 …だが衝撃は起きずに大きく温かな胸に抱きとめられた。 「…大木」 大木は穏やかに微笑んだ。 「何かあったんですか?」 「何も」 雪人は大木とカフェテラスにいた。 “休憩しませんか”としつこく大木に誘われて渋々ここに来たのだ。 「いつもに増して存在感消えてますよ」 「…消えてないし」 「嘘です」 ムキになって言い返すと大木は笑った。 …なんだろう…ほっとする。 雪人は今まで入りっぱなしの肩の力が抜けたような、そんな気がした。

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