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第124話

“泣かされた”日から、雪人は頻繁に大木の部屋に泊まるようになった。 特別に何かをするでなく、一緒に食事を取り、一つのベッドで眠る。 考えてみれば今までの雪人の生活は贖罪のようなものだった。 大学での勉強が全てと言っても過言ではなく、勉強の為に食事を取り、眠る。 もともとの質もあるだろうが仲の良い友人も作らず、娯楽もせず、日々黙々と勉学に励んできた。 だが今更ながら、大学に進学した意味を考える。 …何の為に …何がしたいのか… …何を成すべきなのか… 大木と過ごして、雪人はそう考えるようになった。 いつもの場所で資料を読み耽り、ハッとして顔を上げれば自分を見つめる瞳。 「見てたの?趣味悪いな…」 「ふふ、可愛い。もう、帰りますか?」 気が済むまで本を読む雪人の生活は変わらないが、こうして大木と一緒に大木の部屋に帰る事が増えていた。 「黙って見てるの、止めろよ」 「俺に気付かず熱心に読んでるのは自分じゃないですか。人のせいにしないで下さい」 …ああ言えばこう言う。 …変わらない。 大木との日常に雪人は心が満たされていた。

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