127 / 186

第127話

「美味しい」 「美味いですね」 二人でフーフーと熱々のカレーを冷ましながら口に運んだ。 …自分で作れるんだ… …スーパーで買った食品を自分で料理しただけなのに! 雪人は大木に言われるままに肉や野菜を切り、鍋に放り込んで炒め、頃合を見計らって水を加えて煮立たせルーを投入した。 包丁すらまともに手にした事の無い雪人が何とかカレーを作れたのは辛抱強く指導した大木のおかげだった。 「あ…りがと…僕、初めて料理したから」 「俺は子供の頃からずっとやってたし、最初はこんなもんでしょ」 …子供の頃… 大木自身について、雪人は何も知らない。 もともと雪人は友人と呼べるほど付き合いのある学生もいないし、他人の噂話にも一切興味が無い。 そんな雪人が大木について何を知っていようか。 「…ご両親は…?」 「…居ません」 雪人の問いに、大木は表情を変えずに答えた。 「…母は結婚しないまま俺を産み、もう亡くなってます」 「…ゴメン…」 興味本位で聞いてしまっまた事を雪人は後悔した。 「いえ、事実ですから」 …あれは君のお母さんなの? …あの男の子は誰? スプーンでルーを掬い口に運ぶ。 雪人は一番聞きたい事を聞けずにいた。

ともだちにシェアしよう!