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第141話

直ぐに深く舌を伸ばして奥まで大木を求めた。 「ん…ぁ…」 境界線が分からなくなるくらいに二人で身体をくっつけた。 もつれ合っていた舌が解かれても離れるのを惜しむように銀色の糸が二人を繋いだ。 見つめ合い、再び顔が近づいた時… 「っ…」 大木の携帯が震えた。 「電話…」 「…」 大木は黙ってズボンの後ろポケットから黒いスマホを取り出し、じっと画面を見ていた。 「…」 そして大木がボタンを押すと役目を終えたスマホはまたポケットに戻された。 「出なくて良かったの?」 「…うん」 …辛そうな顔… 大木の眉間には皺が寄っている。 …僕にはには何も言わない… 「雪人…」 大木の唇がさっきまでとは異なり、躊躇いがちに雪人に触れた。 どこがぎこちなく感じるそれを雪人はいつも通りに愛した。 だが…心がささくれる。 チクリチクリと痛むそれは増殖の機会を狙っては増えていく。 僅かな心の隙間に黒い影が出来ていくように。 …シャワーの音がする… 目を開け、雪人は大木を探した。 大木が眠っていたであろうシーツにはまだ温もりが残っている。 上半身を持ち上げると肌からするりと布団が落ちた。 …身体…きれいになってる… 携帯に邪魔されたが昨日の夜も雪人は大木に愛された。 大木は寝落ちした雪人を清めてからバスルームに向かったのだろう。 だがいつもと同じようでいて、少し違う。 夜を思い出し、なぜそう感じるのか雪人には理由は分からなかった。 ただ雪人の知らない闇が胸の内で広がっているのは確かだった。

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