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第160話

広い部屋の隅で子供が足を抱え、俯いていた。 薄暗い部屋の中、静かに時だけが過ぎていく。 ガチャ、と扉が開く音がして子供は顔を上げた。 不安な瞳が映したのは…一人の子供。 同じ歳位だろう。 ドアの隙間から顔を覗かせるとすぐに座り込んでいる子供に近づきその前にしゃがみ込んだ。 「泣いてるの?」 黙っていた首を横に振る。 「寂しいの?」 今度は首を縦に振った。 「おかあさん…いないの…」 小さな瞳の奥を長い睫毛が覆い隠す。 「僕も…いないよ」 そう言って小さな手が小さな手を握った。 俯いていた顔を上げるとその子はにっこりと微笑んで言った。 「お兄ちゃんになってあげる」 「…なあに?」 言葉の意味が分からずに聞き返す。 「ずっと一緒にいてあげる」 「…うん」 二人は立ち上がり手を取ったまま部屋の外へと出て行った。 庭は雪が降り積もり一面銀世界が広がっていた。 「行こう」 繋いだ手は動かない。 「嫌だ…怖い…」 僅かに震えている。 「僕がいるよ?」 向き合って、出来たての弟を優しく抱きしめた。 「守ってあげる。だから行こう」 「…うん…」 もう覗いた瞳に孤独は見えない。 真っ白な雪の上に絡まりながら小さな足跡がついていった。

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